海神と恋人 46※※ご注意※※
・キャラ崩壊(グイグイ来る始陛下等)
・世界観捏造
・始皇帝夢ではありません。ポセイドン夢です。
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「じょ、女王陛下に、私、何か失礼をしていませんでしたかっ!?」
「無礼を働いてんだったら、今じゃねぇか? そのキンキン声で叫ばれると頭が痛ぇ」
「あぅ……ごめんなさい」
レオニダスに指摘されて思わず手で口を塞ぐ千栄理。女王はまた可笑しそうに笑うと「大丈夫ですよ」と彼女を落ち着かせ、椅子に座るよう促す。言われた通りに座り直した千栄理に女王は続ける。
「そういうことだから、千栄理さんがこれからこの国に来た時、快適に過ごせるよう私の方で日本地区にお願いしておきますね。あなたは日本人ですし、出身国と同じ地区の人が手配した方が細かい事情は汲んでくれるでしょうから」
「はい。あの、私一人のことでご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。何から何までありがとうございます」
千栄理の謝罪を聞くと、女王は驚いたようで「まぁ!」と言って、首を振った。
「そんなことはありませんよ。むしろ、迷惑を掛けてしまったのはこちらですから、できる限りのことは致します」
そこで女王がゆっくり椅子から立ち上がると、丁度何人かの黒服を着た男達が入って来た。「あら、お迎えが来たわ」と言って、女王は男達に伴われて別れの挨拶を交わして出て行った。千栄理は出口まで付いて行き、女王の姿が見えなくなるまで頭を下げて礼をした。千栄理が室内に戻ってくると、途端に始皇帝が近寄って来て、彼女の手を取った。
「あっ、陛下。またそうやって! ダメです! 私にはポセイドンさんがいるんですからっ!」
「手を繋ぐくらいは良かろう?」
「ダメですっ」
「お話は終わったかな? 千栄理さん」
始皇帝の手から逃れたところで、今まで会話に入らず、千栄理のバッグから出ていたグレムリン達と何とか交流を深めようとしていたテスラが近付いてきた。出されたお茶菓子を与えようとしていたようだが、どうにも上手く行かないようだ。
「なかなか警戒心が強いようだ」
「そういえば、こうやって外の人と交流するのは今日が実質初めてですね。今まで私やポセイドンさんの手からしか食べていなかったので」
「そうなのか。私の研究室に来れば、もっと面白いものを見せてやれると思ったのだが……」
「グレムリンは向上心の塊のような妖精なので、学ぶ姿勢を支援してやりたい」と言うテスラ。彼の言葉を受けて確かにと思った千栄理は、協力しようとグレムリン達の前で彼と手を繋ぐように言う。
「手を繋ぐ? それに何の効果が?」
「私とお友達って教えてあげれば、多分警戒は解いてくれると思います。悪い人じゃないって分かれば、グレちゃん達も安心できますし」
「なるほど。では、千栄理さん。手袋越しで悪いが、任せるよ」
「はい」
グレムリン達の前でこれ見よがしに手を繋ぐテスラと千栄理。仲睦まじく見えたのか、グレムリン達は不思議そうに千栄理とテスラの顔を交互に見ていたかと思うと、安心したらしく、怒りで釣り上がっていた目つきが柔らかいものに変わった。手を放してまたテスラが小さくしたお菓子を差し出す。テスラが安心できる、信用に足る人物だと分かると、グレムリン達は彼の手からお菓子を受け取って齧り付く。美味しそうに食べ始める彼らを見て、テスラも嬉しそうに笑みを浮かべた。
千栄理と仲良くしているテスラに嫉妬したのか、口を真一文字に引き結んでいる始皇帝が千栄理の隣に来て耳元で囁いた。
「朕とは手を繋がぬのに、この男とはするのか? 千栄理」
「い、今のは不可抗力です」
「ならば、朕とも不可抗力で手を繋いでも良かろうと思うのだが?」
「ダ……メです」
「むぅ。今日のそなたは意地悪だな、千栄理」
「意地悪って、そういうつもりでは無いんですが……」
そこで始皇帝は希望に満ちあふれた無邪気な笑顔を見せ、「ならば、もう一度!」と提案するも「私にはポセイドンさんという決まった人がいますので」とすげなく返されてしまった。不満げな顔をする始皇帝をどうしたものかと考えていると、見かねたレオニダスが本を閉じて立ち上がり、注意する。
「おい、中華の小僧。あんまり嬢ちゃんを困らせんなよ。口説くにしてもガキみてぇに駄々捏ねるなんざ、見苦しいからな」
「小僧ではない。朕は皇帝ぞ」
「なら、尚更我が儘言って困らせんなよ。じゃあな」
レオニダスも帰ると気付いた千栄理はその大きな背中を追って「あの、色々ありがとうございました!」と見送ると、彼は振り返りはしなかったが、ひらりと手を振ってくれた。戻ろうと踵を返しかけた千栄理にグレムリン達を肩や頭に乗せたテスラが出てくる。
「千栄理さん、まだ暫くここに滞在しているかな?」
「あ、はい。勿論です。どうかしましたか?」
「君がここにいる間、この子達を少し預かっていてもいいだろうか? 是非、私の研究室へ招待したいと思ってね」
「え? あ、私は構いませんけど、グレちゃん達は? 行きたい?」
千栄理がそのままテスラに乗っているグレムリン達に訊くと、彼らは興味津々といった様子で頷く。本来は千栄理の用心棒として連れてきた彼らだったが、始皇帝も一緒に居ることだし、大丈夫だろうと彼女はそのまま送り出すことにした。
「行きたいみたいなので、お願いします」
「では、帰る頃になったら、ここに連れて来よう。何時頃になりそうかな?」
「あ、それは――」
それから二、三言会話をしてテスラと千栄理は別れた。その様子を会議室の中から見ていた始皇帝は、彼女が戻ってくると不満を露わにして抱きつく。
「へ、陛下っ!? ダメですってば……」
「そなたは決まった相手がいると言いながら、朕にだけ冷たいではないか」
「そんなことありませんよ?」
「……ニコラと距離が近かった」
「あ、あれはグレちゃん達をどうしようかってお話をしてて――」
「ならば、朕とももっと話をしよう! もっと上に展望台がある。そこが良い!」
「え? ちょっ……陛下!?」
にこっと微笑んだかと思うと、いつかのように始皇帝はいきなり千栄理を抱き上げ、うきうきと会議室を出て上階を目指し、走り出す。突然の行動に拒否することもできなかった千栄理は、されるがままお姫様抱っこの状態で連れられてしまうのだった。
途中で始皇帝が道を間違えそうになったので、千栄理が看板の指示に従って案内すると、壁を壊さずに無事に誰もいない静かな展望台へ着くことができた。等間隔に設置されている休憩用のソファに千栄理を下ろし、始皇帝自身も隣に座る。いつも強引な彼に彼女は戸惑いっぱなしで今回も連れて来られてしまっては仕方ないと「もうっ!」と一応は怒っておいた。
「陛下はいつも強引なんですから!」
「そなたに見せたくて、連れて来たのだ。許せ」
「ここからの眺めは最高なのだぞ」と促されて目の前の景色を見る千栄理。そこには床以外全面ガラス張りで中央区から伸びる国境の外壁と様々な地区の建物が並んでいる光景が広がっていた。太陽に照らされて民家の屋根や近代的なビル街、手前の方には古代の風情がある街並みはどれも美しく、各地区で全く異なる特色を放っている。夜にはまた違った顔を見せるのだろうが、昼には昼の美しさがそこにはあった。
「……綺麗」
「そうであろう? ……千栄理、今日はここへ何をしに来た?」
「今日は……ポセイドンさんへのお土産を受け取りに来ただけなんです」
「それがまさか、こんなことになるなんて、びっくりしました」と困ったように笑う彼女へ伸ばしかけた手を、始皇帝はそっと引っ込めて笑った。
「そうか。そなたに想われるその神は幸せ者だな」
「――陛下?」
いつもと少し違う雰囲気の始皇帝に、千栄理が不思議そうに首を傾げた瞬間、ちゅっと頬に何か柔らかい感触がした。
「……え?」
「だが、朕も負けるつもりは無い」
突然のことに驚きと羞恥が一緒くたになって込み上がった千栄理は、再び「何するんですかっ!」と怒り出すのだった。