海神と迷子?※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定のフルコース
・オリキャラいます
・他の夢ちゃんもいる
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次のページへどうぞ
基地の口が閉じ、地中に潜って行く中、ポセイドンは腕に抱いた千栄理を見つめ、歩き出そうとするも、肩の傷が痛み、足を止めてしまう。
「お帰りなさいませ、ロキ様」
行った時と同じように深々と頭を下げて出迎える瞳に、血塗れのロキは彼女に凭れるようにして抱きつき、うんざりしたように言った。
「瞳、救急車呼んでぇ〜……」
「はい。只今」
凭れるロキの体を瞳はそのか細い腕で抱きしめ返した。
無事に脱出してしまった二柱の様子をモニター越しに見ていたベルゼブブは「あーあ、残念」とさして残念がってもいない調子で呟いた。基地が完全に地中に潜ると、助けに行ってやるかと部屋を組み替え、重い腰を上げる。
通路へ出ると、依然として壁に磔にされている救破の姿があった。何度も胸に刺さった槍を抜こうとしているが、学習しないのか、また盛大に燃やされている。まだベルゼブブの存在には気付いていないようで、そのまま眺めながら彼は声を掛けた。
「楽しそうだね、救破」
「これのどこがそう見えんだよ!! 抜けねぇんだよこれぇ! あの野郎、柄まで刺しやがって痛ぇし、抜こうとすると熱ぃし、もー!! 最っ悪!! つか、ベル! お前、オレがあいつら捕まえられないって分かってただろっ!」
「さて、何のことやら」
ベルゼブブはわざと刺さっている短剣をぐりぐりと回し、痛みでその場をはぐらかす。
「痛ぇ〜!! 止めろや、ボケッ!! 掴むんだったら、抜けよコラァ!!」
「はいはい。今抜いてあげるよ」
ばさばさと怒りで喧しく羽ばたく救破を宥めつつ、ベルゼブブが短剣をどちらも抜くと、救破は自分で槍を抜いた。すると、槍と短剣は霧散して跡形もなく消える。
「持ち主のところに戻ったのか。今回は僕らの負けだね」
のし、とベルゼブブの肩に乗り、救破は駄々っ子のような口調で食事の催促をする。会話をしながら、ベルゼブブは通路の奥へ歩いて行った。
「なぁ、ベル〜。お腹空いたぁ。なんかねぇの? この際、あのまっずいペレットとかでもいいからさぁ〜」
「無いよ」
「はあ!? なんでだよ! ペレットじゃなくても、失敗作の奴らとか残ってるだろ!?」
「いないよ。彼らに全部処理されちゃったからね」
「んぎぃ〜〜〜〜!! お、な、か、す、い、たぁ〜!!」
「はいはい。食べたかったら、引き続き仕事してね」
「人遣いの荒ぇ奴!! 鬼! 悪魔〜!!」
「何を今更。僕も君もそうだろう。これから色々忙しくなるんだから、もう少し我慢するんだよ」
「けっ。やってらんねぇよ。マジだりぃわ」
「あんまり駄々こねると、羽毛布団にするよ。というか、救破。君、血の力を使えばもう少しまともに戦えたんじゃない?」
「…………あ」
「相変わらず、君は鳥頭、と」
「うっせ」
まるで親子や兄弟のような会話をしながら、二人の悪魔は角を曲がり、見えなくなる。後に残されたのは、血と瓦礫が転がる冷たい通路だけだった。
晴れ渡った空、澄んだ紺碧を揺らす海にさらさらとした白い砂浜。ウミネコが空高く鳴き、波の音だけが響いている。そこに千栄理を腕に抱いているポセイドンはいた。ロキには止められたが、禊をしなければならないと、半ば無理を押して来た。
海へ一歩踏み出すと、当然のように水は左右に割れ、ポセイドンを迎え入れる。彼が歩く度、先を進む道が作られ、来た道は閉ざされる。沖に相当する場所まで来ると、彼女を起こそうとポセイドンは何度か呼び掛ける。やがて、ゆっくりと千栄理が目を覚ました。
「あぅ……」
「……そうだったな。今のお前は言葉を持たぬのだった。……それでもいい。千栄理。お前に伝えたいことがあって、余はここに来た」
口にしてしまってから、ポセイドンは認めた。禊など、始めからただの口実だったのだと。千栄理が心配そうな表情で肩の傷に目を向ける。今の彼女は言葉を自由に話せないばかりでなく、体すら自由に動かせない。視線の意味を汲み取って、ポセイドンは「お前が心配する必要はない」と優しく言った。
ざばり、と海水が大きく揺らいで、二人を包み込む。水は二人だけの空間を作るように球体を作り、外からは中が全く見えなくなった。ポセイドンは今一度、千栄理をぎゅっと抱き締め、冷えた頬に触れると静かに告げた。
「余は……お前を愛している。もう二度と、お前を失いたくない」
その言葉を聞いた瞬間、千栄理の目に涙が滲み、応えようとするが、言葉にならず、指先一つ動かせない。それでも、彼女もポセイドンの頬に手を伸ばそうと必死だった。そのいじらしい努力に彼は「無理をするな」と言い、腰布を解くと、それを柔らかな砂上に敷き、その上に千栄理を寝かせた。
「お前の呪いを解く。答えはお前の言葉で聞きたい」
労るようにポセイドンは彼女の頭を撫でた。
「余が術を解くが、恐らく激しい痛みを伴う。耐えられるか?」
ポセイドンの手から伝わる温かさに感じ入るように千栄理は一度目を閉じ、再び目を開けて微笑みながら頷いた。「ポセイドンさんがいてくれるから、大丈夫」とその表情は言っている。そんな彼女の額に愛おしそうに口付けて、ポセイドンは言った。
「お前を解き放つ。必ずだ」
千栄理が僅かにもう一度頷くと、ポセイドンは彼女の手を握り、空いている方の手を彼女の体に向けて宙に翳す。徐々に白い光が彼女の体を包み、やがて彼女の体の下に魔法陣が現れた。白い光は段々強くなり、次第に彼女の表情が歪み、呻き声を上げ、脂汗を流して激痛に耐えているのだと分かる。ポセイドンは彼女の様子を見ながら、少しずつ魔力を込める。電撃が走り、痛みに千栄理が叫ぶ。しかし、陣が急に黒い光を帯び、走る電撃がポセイドンを襲った。
「ぐっ……」
肩の傷が更に開き、血が翳している方の腕を伝う。千栄理に血が掛からないようにし、そのまま続ける。彼女が尋常ではない程の悲鳴を上げ出したので、止むを得ず、ポセイドンは魔力を送る手を止めた。陣が消え、千栄理の様子を見ると、彼女は大量の汗をかいて呼吸も乱れている。彼女が何か呟くが、全く言葉にならず、体も動く気配が無い。解けない。自分の力では、ただ千栄理を無闇に苦しませるだけだと理解してしまったポセイドンは、この場は諦め、少し休んでから陸に戻ることにした。
千栄理を抱えて陸に戻った途端、ポセイドンは糸が切れたように彼女を庇いつつも浜辺に倒れてしまう。千栄理が何度か呼び掛けるも、ポセイドンはぴくりとも動かない。もしかしたら、死んでしまったのではと涙を浮かべる彼女の耳に、ざっ、と砂を踏みしめる音が聞こえ、目線を上げると、そこには走ってきたらしいロキがいた。
「ほんと、バッカじゃないの? たかが人間一匹のために自分が倒れてちゃ、意味無いじゃん」
「救急車来るって言ってんのに、言う事聞かないしさ」と頭をがしがしと掻いてロキは神通力を使い、二人の体を宙に浮かべる。その際、千栄理を自分の前まで近付けると、人差し指で指す。
「どうせ、キミの呪いを解こうとしたんだろうけど、ポセイドンさんじゃ無理だよ」
どうしてと問うも、やはり言葉にはならない。しかし、ロキには伝わったらしい。少し考え、歩きながら簡単に説明してくれる。
「キミに掛けられた術は、見てて分かる範囲では大した事無いように見えるけど、本来他人の意思や言動をほぼ封じるなんて、できないんだよ。する理由も無いし、どうしたって外からの力なんて、意思の力に負ける。それをベルゼブブは色んな術と式をこんがらがったもんにした挙句、複雑に絡ませてキミに施してる。嫌がらせしてるとしか思えない。いっそ芸術的なまでにね。今のキミ、難易度冥王級の悪魔的パズルってワケ。はい、とうちゃーく」
いつの間にか浜辺近くの林の前まで来ており、救急車の担架に乗せられる。まず、一番重傷のポセイドンが乗せられ、次いで千栄理。ロキも自分から乗ると力の供給を止めた。言葉にならないまま、千栄理が礼を言うと、ロキは軽く手を振って応えた。