新年を迎えるポセ夢ちゃん※※ご注意※※
・キャラ崩壊
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「ポセイドンさん、明けましておめでとうございます」
「……なんだ? それは」
新年を迎えた朝、千栄理はベッドから起きて早々、隣で横になっているポセイドンに新年の挨拶をしたのだが、彼はあまりぴんと来ていないようだった。新年の挨拶だと言うと、彼は「それがなんだ?」と心底訳が分からないという顔をする。予想はしていたが、実際にそう返されると、千栄理はどう説明しようか少し考えて答えた。
「今年も無事に一年を迎えられて良かったという意味の挨拶ですよ。人間にとって、一年は長いので」
「そうか。一年など、余にとっては瞬きの間。わざわざ祝うという習慣が無い」
「そうなんですか。じゃあ、今年は折角ですから、お祝いしませんか? といっても、あまり大したことはしませんけれど」
本当はおせちや雑煮を食べたり、おみくじを引いたりしたい千栄理だったが、ギリシャの神の元に来てからはあまりそういったこともできないだろうと思っていた。ポセイドン自身もあまり記念日などには興味が無さそうなので、断られても仕方ないと思っていた。しかし、初詣のようなことはしたいと事前に戦乙女達と天照大神のところに行こうと約束をしていた。プロテウスに頼んで振袖は用意してもらっている。
「お前の国では、その新年の祝いというのは何をする?」
「そうですね。お雑煮やおせちっていう特別なご飯を食べたり、最近はあまりしないですけど、羽子板で遊んだり、神社にお参りに行ってこれから一年の運勢を占ったりしますよ。お子さんがいる家庭では、お年玉って言って、お小遣いをあげたりもしますよ」
「…………祝っているのか? それは」
「お互いにおめでとうって言いますから、お祝いはそれでって感じですね。ポセイドンさんは毎年何して過ごしてたんですか?」
「……この時期はヴァシロピタを食す」
聞き慣れない料理名に千栄理は小首を傾げておうむ返しにした。ポセイドンの言葉少なな説明によると、どうやらパウンドケーキのようだった。
「わぁ、美味しそうですね。あ、そろそろ準備しなくちゃ」
「何のだ」
「今日、これからゲルちゃん達と天照様のところへ初詣に行くんです」
「……聞いていないが?」
「ごめんなさい。ポセイドンさん、こういうのに興味無さそうと思ってしまって……」
「お前が行くなら、余も行こう」
「いいんですか?」
「お前だけに行かせて神である余が行かぬのは、逆に面倒が起きる」
なるほどと密かに納得していると、ポセイドンは立ち上がり、服を着てプロテウスを呼びつけると、出かける旨のみを伝える。そこに千栄理が初詣に行くと補足した。
「でしたら、ポセイドン様もハカマをお召しになった方がよろしいかと」
「なんだそれは」
「私の国の男性用の礼服です。私も今日は振袖を着ていくので、お揃いですね」
「ふん……」
了承と取ったプロテウスはいそいそと用意し、ポセイドンに着付けていく。千栄理はその間に振袖を衣装ダンスから出して、隣の部屋へ行った。後でプロテウスに着付けてもらうためだった。着付けている間、プロテウスはしみじみと去年の出来事を振り返る。
「それにしても、去年は色々なことがありましたな。ポセイドン様」
「なんだ、プロテウス。今まで一年のことなど口にしたことは無いだろう」
「いえ、千栄理様がこの城に来てからというもの、ポセイドン様も私も、少し変わってきたのではないかと思いまして」
「余は変わらん。くだらぬことを言うな」
「そうでございますか……」
発言と行動が矛盾していることに果たして、この神は気付いているのか。プロテウスは一瞬、指摘しようかと思ったが、自分は所詮、使用人の一人。あまり無粋な真似をするものではないと、彼は黙っておくことにした。
千栄理の着付けも終わり、いよいよ出かけるというところで、プロテウスは帰って来るまでにヴァシロピタを作っておくと言うと、千栄理は目を輝かせた。
「ポセイドンさんが言ってた、あのケーキですね。やったぁ!」
「余はもう食べ飽きている」
「そんなこと言わないで、一緒に食べましょうよ。ポセイドンさん」
「では、お二人共、行ってらっしゃいませ」
「はぁい。行って来ます!」
千栄理は当たり前のようにポセイドンの手を取って、歩いて行く。ポセイドンもその行動に特に何を言うでもなく、ついて行く後ろ姿に、プロテウスは朗らかな微笑みを零した。