海神と迷子? 2※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定がちりつも
・オリジナル扱いのギリシャ神様いる
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次のページへどうぞ
ぱち、と目を覚ましたポセイドンは、一瞬自分がどこにいるのか分からず、少しの間天井を見つめていた。目の焦点が合ってくると、病院のベッドに寝かされているのだと分かる。起き上がろうとしたが、両手首が何かで固定されており、叶わなかった。だが、そんなことで諦めるポセイドンではなく、腹筋に力を入れ、まず右腕にありったけの力を込めて引っ張ると、ばきんっ、という金属が割れるような音がして解放される。どうやら、鎖で固定されていたようだ。左腕も同じ要領で外すと、ポセイドンはすぐベッドから降りようとした。その時、シャッと目の前のカーテンが開き、
「ほーい、ワシじゃよ〜」
ゼウスとヘルメスだったが、立ち上がろうとしていたポセイドンを見た瞬間、「何やっとんじゃ、お前さんはぁー!?」と絶叫した。その声にすぐ反応して、アスクレピオスと看護師達も駆けつけて来る。彼も拘束から抜け出していたポセイドンを見た瞬間、ゼウスと同じように「ぎゃー! 何してんスか、大叔父様ぁー!!」と叫ぶ。そんな彼らに構わず、そのまま出て行こうとしたポセイドンを、ヘルメスを除いた全員でベッドへ押し返す。
「なんだ、貴様ら」
「なんだじゃねーんスよっ!!? なんだじゃねーんスよ!! なんで怪我神の癖にソッコー立ち上がってんスかっ!? アンタ、もう少しで腕取れてた上に毒回って死ぬとこだったんだぞ!! そのまま寝てろやー!!!!!」
「千栄理はどこにいる。彼奴の様子を……」
「千栄理さんなら、奥のベッドですよ」
「ヘルメス!? 何故今、特にいらん親切を発動したんじゃ!?」
「奥か」
「見に行くなってっ!! 歩くなってぇっ!!」
それから何とかベッドへポセイドンを戻し、アスクレピオスはまだ完治していないのだから、無闇に出歩くことを改めて禁じたが、ポセイドンはずっと不機嫌顔で未だ納得はしていないようだった。一度、ポセイドンのベッドカーテンを閉め、部屋の隅でゼウスとアスクレピオスは相談しているようだった。
「アスクレピオス、やっぱり拘束したのは逆効果だったんじゃないかのう?」
「いえ! 大叔父様のことですから、拘束しなければ、もっと早く千栄理ちゃん連れて、診療所抜け出してましたよ」
「確かに……」
これまで最強であるが故に、今回のような大怪我をしたことが殆ど無かったポセイドンにとって、ベッドの上でただ静かに怪我を治すことに専念するということが果たしてできるかどうか。まず、大人しく寝てはいないだろうとふんで、意識が無いうちにベッドに拘束したは良いものの、まさか鎖を引きちぎってまで起き上がってくるとはアスクレピオスも思っていなかった。賢い彼は口にこそ出さないものの、内心では大叔父のことを化け物か何かかと思っていた。
「で、ポセイドンの怪我は完治までどのくらいかかりそうかのう?」
「うーん……明日の具合にもよりますけど、大叔父様なら、三日程度で動けるようにはなります。毒はもう抜きましたし」
アスクレピオスの言う毒とは、救破の血のことだ。ベルゼブブは確かに彼のことを『不死鳥の血を引いた悪魔』だと言っていた。不死鳥の血は永遠の命をもたらすと言われているが、その悪魔となると、血の効果は逆になる。
少量でも体内に入れば、ゆっくりとだが、確実に命を蝕み、やがて体が血の力に耐え切れず、死に至る。その証拠に、ポセイドンが彼に噛み付かれた時、僅かに傷口に掛かった救破の血が神であるポセイドンの体を蝕み、危うく細胞が壊死してしまうところをアスクレピオスが血を抜いて食い止めたのだ。細胞の壊死自体を食い止めることは、死者すら蘇らせた神でも難しかったが、最小限に留めることはできた。流石に壊死した細胞を元に戻すことはできないので、切除するしかなかった。放っておけば、炎症の原因になり、感染症を引き起こしてしまう。幸い、ポセイドンの場合、細胞の壊死は肩から背中にかけて広範囲に広がってはいたものの、神である故に毒の進行が遅く、アスクレピオスの対処が早かったお陰で表面の細胞を切除するだけで済んだ。もし、救破の血が千栄理の体に一滴でも入ってしまったらと考えると、ゼウスはぞっとした。
そう思うと、一刻も早く不安の芽は摘んでおきたい。もうこれ以上、ただの人間である千栄理を危険な目に遭わせる訳にはいかない。ちょいちょいと指でヘルメスを呼びつけ、ゼウスは何か彼に耳打ちする。「畏まりました」とヘルメスは一礼し、病室を出て行った。
「爺様、何頼んだんスか?」
「なぁに。ちと場所を探すように言っただけじゃよ」
「? ……そっスか。まぁ、頑張ってください。俺は病人の治療に専念するんで」
「よろしく頼むぞ」
最後にポセイドンへもう一度、大人しく寝ているように言うアスクレピオスに、彼は千栄理の様子を訊いた。
「千栄理ちゃん、まだ呪いが全然解けないんで、ベッドで寝てもらってます。もうすぐご飯出すので、そん時にまた様子見ますよ」
「そうか」
渋々とポセイドンが毛布を引き寄せ、ゼウスが彼のベッドの傍にある椅子に座ったところで、隣からシャッとカーテンが開けられる。顔を覗かせたのは、頭に包帯を巻かれたロキだった。
「おはよ〜、ポセイドンさん。調子どう? ……って、ジジ様も来てたんだ」
ロキの顔を見た瞬間、ゼウスはぷんぷん怒り始め、「ロキ! そもそもの原因はお前さんだと聞いとるぞ!」と叱りつける。しかし、ロキは大変不本意という顔をして、事の詳細を言って聞かせた。
「だからぁ、ボクも騙されたようなもんだってぇ〜」
「全く……まぁ、今原因をあれこれ言っても仕方あるまい。ポセイドンもお前さんも、無事意識が戻った。お前さんらは怪我を治すだけじゃが、深刻なのは千栄理ちゃんの方じゃ」
千栄理の話を出した途端、ポセイドンは暗い表情になり、ロキはバツが悪そうに俯く。ポセイドンは自分の力で彼女の呪いを解けなかったこと、ロキは結局、彼女を危険な目に遭わせてしまったことで、精神的に少しダメージを負っているようだった。
ゼウスもポセイドンの意識が戻る前に、千栄理の状態を見てみたが、彼女を縛り付けている呪いは天界で使われている術だけではなく、冥界の術も同時に組み込まれており、それらは表裏一体であったり、左右対称であったり、はたまた左右非対称、その他諸々の式を用いて雁字搦めになった糸のように彼女の体を縛り付けているらしい。
「まるで、裁縫箱の中で色んな糸がぐちゃぐちゃに絡まっているもんを一つ一つ解いていくようなもんじゃ。それも、千栄理ちゃんの体力と命が尽きぬうちに終わらせなければならん。ワシの力だけじゃ、ちと心許ないのう」
「冥界の術……。それで、あの時……。だが、余が解けぬとも、彼奴なら……」
「うむ。ワシもそう思って声を掛けたんじゃが、千栄理ちゃんの体力が戻らんうちは危険じゃ。ポセイドン、もう少しの辛抱じゃよ。ここでしっかり体を休めれば、お前さんが動けるようになった頃には千栄理ちゃんの呪いを解く準備ができるじゃろう」
「ねぇ、ジジ様」
それまで黙って聞いていたロキが徐に口を開く。ゼウスとポセイドンに注目されるが、彼は特に気にすることなく、顔を上げる。その表情は常のような飄々とした雰囲気は無く、至って真剣だ。
「あの子の呪い解くの、ボクも手伝って、いい……?」
おずおずと申し出る彼に、二柱は僅かに瞠目したが、ゼウスは考えるまでもないという顔で「ワシも同じこと考えとった」と言った。